新型コロナウイルスと民泊の今


 民泊には180日という営業日数規制がかかるうえ、住宅宿泊管理業者に委託しなければいけないということは費用もかかる。そこで用意されたのが、「改正旅館業法」という話は前項でしました。ただでさえ機能していない民泊新法のもと、ニューノーマル時代の民泊が今後どうなるのか、ここでは考察しています。

コロナ禍前の民泊廃止理由


 2018年6月から施行された住宅宿泊事業法(民泊新法)ですが、1年程度たった時点で、予想通り!?せっかく届出をだしたものの廃止する民泊施設が増加! 

 その理由は圧倒的に「旅館業・特区民泊に転用するため」前項で解説しましたとおり、改正旅館業法下では小規模な(5部屋以下、帳場なし)家屋であっても旅館業のライセンスをとれるようになったため、わざわざ営業日数制限のかかる民泊で運営する必要性をだれも感じないためです。観光庁の調べでは2019年3月時点で廃止理由の37.6%(77軒)がこの「旅館業・特区民泊に転用するため」の廃止でしたが、2019年12月時点では57.8%(129軒)とあっという間に増加しました。

 これは民泊新法の不備というより、民泊オーナーの多くが、「業」として宿泊施設を営める、という事実に着目したほうが良いでしょう。

 そう、オーナーの多くは自身が居住する住宅で営む本来の民泊ではなく、オーナー不在型の6号民泊なんですね。これを次の段落を読む前に良く覚えておいてください。

コロナ禍で加速する民泊の廃止とその理由


 新型コロナウイルスが猛威を奮い始めた2020年4月から、ついに民泊の数自体が減少に転じました。新規届出数よりも廃止する数のほうが多いということですね。その減少(廃止)理由も大きく変わりました。従前より圧倒的だった「旅館業・特区民泊に転用するため」は全体のわずか18%(52軒)に留まる一方で「収益が見込めないため」49.1%(142軒)が爆増

 だけど良く考えてみると不思議ですよね。コロナ禍で旅行者が減るので「収入」が見込めないのは理解できますが、せっかく書類を出してまで届出したのになぜ、廃止までしてしまうのでしょうか?

 その答えは、前段落のとおり民泊オーナーの多くが管理者不在の6号民泊で営業していたことにあります。このスタイルの民泊施設の場合、こちらで述べたとおり、住宅宿泊管理業者への委託が必須となります。つまり、固定費が発生しているのです。さらに自身が所有している物件ならばまだ良いですが、これが転貸での運用となると家賃まで発生しているため、ひたすらに費用が発生することになります。

 こうした背景から、収益が見込めないでのはなく、正確に言えば利益が見込めないから、民泊の廃止が増加していると言えるでしょう。

ウィズコロナの民泊の未来 機能から情緒へ


 それでは固定費の発生しない(民泊収入がない時期でも自身が住んでいる家屋なので廃止する理由がない)4号、5号民泊に関しては、今後どうなるのでしょうか。

 もともと民泊はオリンピックなどの一時的なイベントも含めたインバウンド旅客の増加に対応すべく、検討・導入された概念でした。いわば、日本においては民泊の「機能的価値」に着目して導入したため、ジェントリフィケーションに繋がる家主不在型民泊の跋扈を否定するものではありませんでした。要は地域の収容力を増やすという機能に特化してデザインされたのが民泊新法というわけです。しかし、蓋を開けてみれば、前述のとおりコロナ前もコロナ禍でも民泊新法は機能せず、その数は減少に転じ、その目的の達成が怪しい状況となっています。

 そこで着目すべきは、「情緒的価値」です。行動経済学でも注目されていますが、旅行者は決して機能的価値だけで、サービスの良し悪しを判断したりしません。むしろ民泊が旅館業と一線を画す部分があるとすれば、4号、5号民泊におけるオーナーとの交流といった情動的つながり、宿泊という機能以外の付加価値であり、これがあるからこそ、ウィズコロナ時代のファーストチョイスになりうると考えられます。

 折しもコロナ禍は、宿泊施設に機能的価値を訴求することの限界を突きつけました。安く泊まれるから、駅に近いから、朝食がついているから、といった宿泊機能に付随する価値は、「コロナの感染リスクが低い」という大前提を満たさない限り、意味をなさなくなりました。

 コロナの感染リスクは当然に不特定多数が集まる場所で高まりますから、他の旅行者がいない貸切系の民泊施設にスポットがあたる可能性は十分にあります。これだけでも精神的な価値のある民泊ですが、オーナーとの交流において情動に訴えることのできる、情緒的価値をさらに提供できれば、少なくとも4号、5号民泊の社会的な存在意義は保てることでしょう。

 なお、情緒的価値は単にホスピタリティがあれば良いというだけでなく、むしろ集客の段階からオーナー自身をブランディングしていくマインドセットが有効になります。自身の趣味や趣向・得意分野を明示することで、予約の段階から、あらかじめ「共感」しそうな顧客を惹きつけることは、一見して顧客の属性を絞るため数が減るように思えます。しかし最終的に他の民泊とも違うという差別化・独自性を共感してくれた顧客が口コミで広めてくれますので、価格競争に巻き込まれない強みの獲得に繋がります。

 ウィズコロナだからこそ生き残れる本来の意味での民泊(4号・5号民泊)が、ただ生き残るだけでなく、むしろ他の宿泊施設に優越するチャンスは、この情動的価値にあると言えるでしょう。