第三講:日本のDMOの構造的な問題


国体の違いが生むDMOリーダーの不在

 活発なマーケティング活動を行っている欧米のDMOは、第一講で述べたように委託を受けたNPOや政府・自治体が自らによって運営されており、一見して日本のDMOの組成と大きな違いがないように思えます。

 しかしながら、第二講で述べたDMOの三要素における②人材の育成・活用と③資金の調達において、大きな違いがあるのです。

 

 以下の表はかなり専門的な内容ですので、細かい部分の説明は省きますが、まず

③の資金の調達の部分から話しますと、端的にいって連邦制の国々では、政府、中間政府(州政府など)、基礎自治体の予算配分は4:5:1とか5:4:1とか、政府と中間政府に大きな予算が振られます。日本と同様の単一型の国の場合でも政府に予算を集中させるなど、DMOを組成する母体(政府にせよ中間政府にせよ)そのものに十分な予算があるのが通例です。

 一方で日本の場合の予算配分は3:3:3など基本的に政府、中間政府(県)、基礎自治体間でのバランスを考えて行いますので、どのレベルにあっても強力な予算編成ができないという特徴があります。政府レベルでもそうなのです。日本のDMOともいえる観光庁の予算は200億(※)程度であり戦闘機2台分くらいです。

 基礎自治体は諸外国に比べ予算があるように思えますが、そもそも予算編成時の集権制が高く、執行時の分権性が低い(簡単に言えば、国からもらう交付金は使い道が指定されており、基礎自治体が好き勝手に使えない)日本においては、観光に自由にカネをつっこめないという事情があります。

(※)ただし出国税の導入で今後予算が潤う可能性はあります。

 もうひとつの大きな違いが②人材の育成・活用の部分です。欧米諸国では公務員と民間の垣根が低く、人材は極めて流動的です。例えばNZ(ニュージーランド)では日本人であっても観光行政で働くことができます。

 一方で日本の場合は公務員は公務員試験を経てなるもの、という厳然たるルールがあるため、外部からマーケティングの専門家を調達しづらいのです。

 

 つまり・・・日本のように政府がDMO組成の音頭をとることそのものが珍しいですが、トップダウンでDMOを組成しようにも「人材の開放性」がネックになり、逆に基礎自治体からボトムアップで組成するにしても、「予算組と執行の権限」がないことから政府、中間政府、基礎自治体それぞれのレベルでDMOのマーケティング活動を可能にする②人材の育成・活用と③資金の調達が中途半端という事態に陥っているのです

 これは国体の違いからくる構造上の問題であり、誰が悪いわけではありません。ここで重要なのは日本においては海外に対して強力にマーケティング活動を行えるリーダー的なDMO(※)が不在であり、今後もそうなるであろうということを認識することです。その解決策については第四講で考察しましょう。

(※)第二講で述べたマーケティングに従事できるほうのDMO。